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はじめに
アナツバメ(海燕、Collocaliini)の巣は古来より、美容効果や感染症予防効果等が経験的に知られており、中華の高級食材としても食されている。アナツバメの巣にはシアル酸の含有量が高い事が知られている。近年の研究でシアル酸はIGF-1を誘導産生する事で全身の機能性の恒常性維持に関与している事が明らかにされている。Saberら1)は血清IGF-1と脳梗塞や心筋梗塞発症リスクに密接な関連があることをFramingham studyで明らかにしている。脳梗塞や心筋梗塞発症を未然に防ぐには中高年齢域の血清IGF-1の低下を抑制する事が必須であると考えられる。
松本ら2)は抗ウイルス活性を有するシアロペプチドの探索で、シアル酸含量と抗ウイルス活性がリンクしておらず、シアル酸の結合部位を中心とした糖鎖構造が有用であるとしている。金丸ら3)も同様にシアル酸の結合部位が重要であると報告している。
そこで、アナツバメの巣由来シアル酸を含む機能性関与成分もその構造が当然重要であろうと考え、製造方法を検討するとともに得られたシアル酸についてのその機能性についても検討を行った。
1. アナツバメの巣由来シアル酸の抽出
動物のシアル酸を有する糖鎖修飾はAsn型、ムチン型、及びプロテオグリカン型等が知られており、何れの型でもアミノ酸残基の結合様式はβ結合である。アナツバメの巣に含まれているシアル酸はムチン型で、Asn残基に結合している糖鎖の非還元末端に存在する。糖鎖はβ結合であり、β解離させると、シアル酸を含むオリゴ糖(シアロオリゴ糖;SAO®)を単離できる。
アナツバメの巣からSAO®を得るために、アルカリ性条件下及び酸性条件下での抽出を行った。即ち、アナツバメの巣に10倍量の0.25%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液を加えアルカリ性条件下で抽出を行った。冷却後、遠心分離及び濾過により不溶物を除去した。その後、電気透析にて脱塩し、乾燥粉末とした。収率は約30%であった。また、アナツバメの巣に10倍量の0.5M塩酸溶液を加え酸性条件下での抽出も行った。収率は約8%であった。SAO®の抽出をゲル濾過にて確認した結果を図1に示した。図1の(1)には酸性条件下抽出での(2)はアルカリ条件下抽出でのシアル酸及び糖の値を示している。酸性条件下抽出の場合、シアル酸と糖のピークに相関が認められなかったが、アルカリ条件下抽出の場合、そのピークは一致していた。この事からツバメの巣をアルカリ条件下で抽出する事でSAO®が抽出されることが判った。
図1: ツバメの巣より抽出されたシアルオリゴ糖の状態
カラム:Toyopearl HW40S(10×800mm)
溶出液:50%エタノール溶液
流速:1ml/ml
分取:200滴/本
2. アナツバメの巣由来SAO®の機能性
アナツバメの巣は滋養強壮食材として古くから食されているがその栄養機能性成分については近年迄明らかにされていなかった。1950年代にはアナツバメの巣に含まれているシアル酸が関与しているとされた。しかしその成分の機能性発現メカニズムは不明であったが、近年抗老化の研究からシアル酸が再度注目され始めた。Malicdan4)や野口5)、岡嶋ら6)は2009年にそれぞれ別々にシアル酸がIGF-1の産生を誘導し、種々の生理的/薬理的機能を発現している事を明らかにしている。従って、アナツバメの巣の機能性発現は細胞増殖因子等による直接的な作用ではなく、生体内で何らかのシグナル経由で生じていると考えた。
そこでヒト正常細胞増殖能に対するSAO®の影響を測定し、表1に示した。SAO®の添加量が0mg/ml(ブランク)を100%とした時の各添加量の時の細胞増殖率を算出した。SAO®は一般的にシアル酸に認められている細胞増殖能が濃度依存的に認められた。しかしこの現象はシアル酸標準品でも認められる事から、ツバメの巣由来の作用ではないと考えられた。シアル酸はIGF-1を産生する事が明らかにされている事からSAO®の機能測定としてIGF-1の測定を行い図2に示した。また、SAO®はIGF-1以外の各種成長因子の産生能も測定し表2に示した。IGF-1以外にもPDGF(表2-4)を除くFGF-β(表2-1)、EGF(表2-2)、及びHGF(表2-3)の産生も増加させていた。その増加率は50%以上であった。PDGFは血小板由来増殖因子であることから培養系ではPDGF産生に影響が認められなかったが生体系(in vivo)では異なる結果が得られる事が考えられた。SAO®は標準品として用いたフリーのシアル酸(FAS)に比して有意に細胞活性能が高かった。
添加量(mg) | 増殖率(%) |
0 | 100 |
0.3125 | 103 |
0.625 | 111 |
1.25 | 115 |
2.5 | 113 |
5.0 | 121 |
10.0 | 120 |
表1: SAO®によるヒト正常繊維芽細胞に及ぼす増殖率
SAO®添加量が0(無添加;対照)を100%とした時の各濃度の時の細胞の増殖率を示した。
図2: ヒト正常細胞を用いたSAO®によるIGF-1産生に及ぼす作用
表2: ヒト正常細胞を用いたSAO®による各種成長因子産生に及ぼす作用
添加濃度(pg/ml) | 0 | 0.31 | 0.63 | 1.25 | 2.5 | 5.0 | 10 | 20 |
FSA | 0.041 | 0.05 | 0.055 | 0.061 | 0.072 | 0.084 | 0.120 | 0.178 |
SAO® | 0.054 | 0.25 | 0.220 | ─ | 0.421 | 0.590 | 0.848 | 1.130 |
表2-1: FGF-b
添加濃度(pg/ml) | 0 | 3.91 | 7.81 | 15.6 | 31.3 | 62.5 | 125 |
FSA | 0.0384 | 0.0873 | 0.100 | 0.141 | 0.283 | 0.283 | 0.524 |
SAO® | 0.0552 | ─ | 0.140 | 0.280 | 1.077 | 1.921 | 2.236 |
表2-2: EGF
添加濃度(pg/ml) | 0 | 12.5 | 250 | 500 | 1,000 | 2,000 | 4,000 |
FSA | 0.160 | 0.219 | 0.289 | 0.412 | 0.700 | 1.193 | 2.165 |
SAO® | 0.148 | 0.411 | 1.232 | 2.061 | ─ * | ─ * | ─ * |
表2-3: HGF
添加濃度(pg/ml) | 0 | 15.6 | 31.3 | 62.5 | 125 | 250 | 500 |
FSA | 0.1083 | 0.1545 | 0.1886 | 0.2507 | 0.4123 | 0.6730 | 1.146 |
SAO® | 0.1075 | 0.1121 | 0.1130 | 0.1105 | 0.1183 | 0.1153 | 0.1272 |
表2-4: PDGF
生体内には働きの異なる様々な細胞が集積している。これらの細胞は細胞外基底膜(Extra cellular matorix;ECM)で間隙が埋められており、このECMが正常に維持されることで種々の慢性難治性炎症性疾患の惹起が抑制されている。しかし、このECMを構成しているたんぱく質、多糖体、及び脂質は非常に変性し易く、心理的、物理的、環境要因、及び加齢等様々な要因で容易に崩壊する。通常、崩壊から再生へのメカニズムは組織の正常化に重要なプロセスであるが、再生時に障害が生じると、慢性難治性疾患へと穏やかに進行し、生活の質(QOL)を著しく低下させる。代表的な慢性難治性炎症性疾患として関節リウマチ、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患、多発性硬化症があげられる。これらの治療薬は主に免疫抑制剤であるが長期使用により易感染やガン化等、より重篤な副作用をもたらす。
これらの事から、ECMの崩壊や再生時の障害を抑制することは重要である。SAO®のECM構成全成分への影響を解析することは殆ど不可能であることから、コラーゲン、ヒアルロン酸を含むグリコサミノグリカン(GAG)類に対する影響を検討した。
ECMの主要たんぱく質である1型コラーゲン産生に及ぼすSAO®の作用をヒト正常繊維芽細胞を用いて測定した結果を図3に示した。1型コラーゲン産生は標準品であるシアル酸を5pg/mlで添加した時、無添加に比して約10倍促進していたが、SAO®はシアル酸量として5pg/ml添加で0.532と無添加の0.0251に比して約20倍以上促進していた。SAO®は1mg/mlの添加量で細胞増殖を10%促進し、PDGFを除くヘパリン結合性増殖因子(IGF-1、FGF-β、EGF、HGF)の産生促進、コラーゲンやヒアルロン酸等のGAGの産生促進等生体健全化維持に必須の生理作用を示すことが明らかとなった。
図3: SAO®による1型コラーゲン産生に及ぼす効果
おわりに
アナツバメの巣は古来より、美容効果や感染症予防効果等が知られており近年ではその機能性成分としシアル酸が注目されてきている。シアル酸はIGF-1の産生を誘導し全身の機能維持・改善に関わっている事が明らかにされている。しかし、シアル酸含量と抗ウイルス活性とはリンクしておらず、シアル酸の結合部位を中心とした糖鎖構造が重要である。従って、アナツバメの巣由来シアル酸を含む機能性関与成分も当然その構造が重要であろうと考え抽出方法の検討を行い、アルカリ性条件下で抽出する事でSAO®が抽出されることが判った。このシアロオリゴ糖の分子量は1.7k~2.3kDaで、シアル酸/ヘキソースの質量比が0.5~0.9の画分に最も高い活性が認められた。
SAO®にはIGF-1、FGF-β、EGF、及びHGF等いわゆるヘパリン結合性成長因子の産生誘導を認めた。また、データーは示していないが全コラーゲンの産生誘導も認められた。
これらの結果からツバメの巣由来SAO®は各種成長因子を産生させ細胞外基底膜の崩壊を防ぐことで生体の機能の恒常性を維持することに重要である事が明らかにされた7)。特にIGF-1は加齢とともに減少し60代では20代の1/2程度になっている。この現象が所謂加齢性疾患のトリガーであろうとの推測の元、IGF-1の減少抑制に重要に関与する食品の第1の候補がアナツバメの巣由来SAO®であると考える。
シアロオリゴ糖(SAO®)
参考文献
1)Saber H., et. al.: Stroke, 48(7), 1760-1765 (2017)
2)松本光晴ら: 日本畜産学会報, 73(1), 49-56 (2002)
3)Kanamaru Y., et. al.: Biosci. Biotechnol. Biochem., 63 (1), 246-249 (1999)
4)Malicdan M. C., et. al.: Nature Medicine, 15(6), 690-695 (2009)
5)野口悟: 生化学, 83(4), 316-320 (2011)
6)岡嶋研二: Fragrance J., 37(10), 43-47 (2009)
7)谷久典ら: 薬理と臨床, 27(4), 187-193 (2017)
Patent
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日本 | 商標 | My Health・Care NATURE | 2018/06/15 | 6051525 |
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日本 | 商標 | 雅嘉燕 | 2018/06/15 | 6051527 |
日本 | 商標 | 嘉楽燕 | 2018/06/15 | 6051565 |
日本 | 商標 | My Health・Care | 2018/06/29 | 6055944 |
日本 | 商標 | SAO | 2019/12/27 | 6211514 |
日本 | 商標 | BNハーミルト |
2020/03/30 | 6240509 |
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